http://kanshiyonkoma.mangalog.com/Entry/125/中島敦「山月記」の漢詩
偶因狂疾成殊類
災患相仍不可逃
今日爪牙誰敢敵
当時声跡共相高
我為異物蓬茅下
君已乗軺気勢豪
此夕渓山対明月
不成長嘯但成嘷
中島敦「
山月記」に出てくる漢詩。
唐の時代の中国。虎となってしまった詩人・李徴(りちょう)が、かつての友人と再会。己の身の上を語る…。
自分は天才だという自負が強すぎるために、周りの凡人たちと切磋琢磨できず、また、自分は本当は天才ではないのではと内心恐れるがゆえに、必死の努力もできず…。
プライドの高さが足かせとなって、大成できなかった天才詩人…。
高校時代、教科書で習って、授業中に萌えましたよ…。
自分は他のやつらと違い、将来、大詩人になる才能を持つ「天才」であるはずだ。なので、周囲にも尊大に振舞っている。だが、もしも必死に努力して、苦労の末に開花した才能が平凡なものだったら…?努力は無駄になる上に、「凡人」であることを周囲に暴露してしまう。それは、彼にとって恥なのです。
自分の中の才能や可能性の限界がまだわからなくて、自分は将来大物になるんだという根拠のないプライドと、そうではないかもという不安がある若い世代は、李徴の苦悩に、共感できるかもしれません。
李徴には自嘲癖があるのですが、「自嘲は、人に笑われる前に自分で笑うという、プライドの高さゆえだ」と、明るい性格に見えた国語の先生が言っていたのが、忘れられない…。
元々は、「人虎伝」という中国のお話で、この詩も「人虎伝」に登場するそうです。
岩波文庫の『唐宋伝奇集』の下巻にも、「李徴」というタイトルで同じお話が載っています。ただし、そちらには作中に漢詩が登場しないんですが…。
※ちくま文庫の『中島敦全集1』、及び『ちくま日本文学全集 中島敦』を参考にしました。